夏期セミナー2017を終えて

2017年08月01日 お知らせ
 

1日目

レジデントコース,一日で脳研臨床部門を体験できるものであった.

朝から,研修医,後期研修医,研究者の4名が参加してくれた.当科の見学は,総回診前の議論の一部のみであったが,それでも参加者からは活発な議論を聞けて,刺激を受けたとの言葉をいただいたのは,こちらもありがたく思った.

その後,脳外科の見学,Brain cuttingの見学,神経系のCPCに参加いただいた.脳研CPCは中枢神経系の内容で,毎月行われている.大学の病棟で診ていた方の最終病理診断,その病態検討までできる非常に有意義な会である.参加者も神経内科医,脳外科医,病理医が活発な議論をしていることに興味をもってくれたようであった.なお,夜には一部参加者と飲み会にも繰り出した.特にレジデントと直接話せることはよかったと思う.

2日目

ポスター会場

ポスター会場

外勤に行かれている(私も)方が多く,参加しにくいと思うが,神経系のコネクトームのセミナーが中心であった.また,今年ご退官される脳研崎村建司教授から,これまで遺伝子改変動物作成とそれらを用いた機能解析のお話を頂いた.脳研に入られてからの40年であり,伝説として語り継がれる様なお話であった.

その後,脳研の若手研究者の研究発表であった.当科からは,畠山公大先生が“脳梗塞に対するミクログリア療法”,上村昌寛先生が“遺伝性脳小血管病CARASIL発症のハプロ不全”の内容で発表された.二人とも落ち着いた発表をさせていた.結果,最優秀若手研究賞である中田瑞穂若手研究奨励賞受賞を上村先生が受賞された.他の発表者の演題も優れたものが多く,なかなか厳しい選考であったと考えるが,上村先生のこれまでのお仕事にみなの評価が集まった結果であったと思う.

3日目

夏期セミナー最終日の午前中は,“神経疾患の遺伝子治療”のテーマで国内の大変ご高名な先生方から遺伝子治療の基礎病態とその応用のお話を頂いた.午後には特別講演で,Cincinnati大のPI佐々木敦朗先生からご講演でした.各セッションの報告を,以下に記す.

午前)

今回,“神経疾患の遺伝子治療”と題したシンポジウムを企画した.最終日にもかかわらず,朝から多くの聴衆にご参加いただき,この領域に関する興味の高さを感じた.実際,臨床応用が極めて近いこと,治療の劇的な効果などを知ることができ,さらに近い将来のさまざまな疾患も含めた適応の可能性を伺え,今後の医学への貢献の可能性を知ることができ,私も含めて(?)若い研究者の動議付けとなるセッションだった.いずれの先生方の研究に対する熱意,その背景にある治療応用への思いは,聴衆の皆さんに動機付けられるものであったと思う.

演題1 ALS病態モデルとその応用展開

須貝先生の講演

講演中の須貝先生

新潟大学脳研究所神経内科 須貝 章弘 先生

筋萎縮性側策硬化症(ALS)の病態に直接関与する核蛋白TDP-43のmRNAレベルでの調節のお話であった.ALSでは,TDP-43の異常を認めることが多い.TDP-43はスプライシング制御による自身の量調節機構(autoregulation)があり,ALSではこのautoregulation機能の破綻が生じ,病態に関与されることが推定される.孤発性ALSは疾患モデルを作ることが難しいが,今回アンチセンスオリゴを用いて,この機序に基づいたALS病態モデルを作成し,分子標的治療に向けた検討をしているとのことであった.ALSは疾患モデルを作ることも難しいが,新しいモデルを用いて,病態や治療の検討が期待される.

 

 

演題2 神経筋疾患に対する核酸医薬開発

国立精神・神経医療研究センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部 青木 吉嗣 先生

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)に対するアンチセンス核酸を用いたexon skip療法のファースト・イン・ヒューマン試験も成功されている.さらに,骨格筋指向性のあるモルフォリノ核酸伝達技術を開発し治験を進めている.その一方,今年,ALSのC9orf72 hexanucleotide repeat expansionにおいて,transgolgi networkの障害,細胞内・外小胞輸送の障害が病態の主体となることを示された.また,異常伸長付近のイントロンに対するアンチセンス療法で,細胞内・細胞外小胞輸送異常が正常化するということであった.

DMD,ALS,それ以外にもさまざまな疾患に対してアンチセンスオリゴによる応用を目指されているとのことであった.広い視点からさまざまな神経疾患に取り組まれている点に強くインスパイアされた.

演題3 「福山型」筋ジスの新知見とアンチセンス治療

神戸大学大学院医学研究科神経内科/分子脳科学 

東京大大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経内科学 戸田 達史 教授

本邦の小児期筋ジストロフィーでDMDについで多い福山型筋ジストロフィー(FCMD)のアンチセンス治療のお話から始まった.DMDとは異なり,FCMDはほとんど同じ変異なので,治療のターゲットは,1種類で可能であること,以前は3種類のアンチセンスのカクテル療法が必要であったが,現在は1種類で可能となっていることのお話しであった.また,FCMD原因遺伝子フクチン遺伝子の機能に関しては,これまで明らかになっていなかったが,α-ジストログリカンに結合する糖鎖(リビトールリン酸)をフクチンが結合させることで,生理的な機能を果たすことを昨年ご報告された.疾患の基礎病態解明から治療応用に結び付けられている点は見習うべきだと思った.

演題4 エピゲノム創薬で治療できる可能性のある神経疾患などの難病について

京都大学大学院医学研究科形態形成機構学 萩原 正敏教授

mRNAから全身に対する治療を目指した研究を行われている.選択的splicingを制御する低分子化合物を広くスクリーニングされている.低分子化合物は,薬剤のバリアーの血液脳関門を越えられるので,非常に魅力的である.cystic fibrosis,心Fabry,papillomaから,ダウン症まで,その候補は200を超えていた.また,その技術を応用するため,ご自身でもベンチャー企業を作られ,アカデミアからいかに創薬に進むかもご教授いただいた.

演題5 AAVベクターによる遺伝子治療

自治医科大学内科学講座神経内科分野

東京大学医科学研究所遺伝子・細胞治療センター 村松 慎一特命教授

アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターをいろいろ開発され,当初パーキンソン病の治療から始められ,AADC欠損症の小児への治療でも劇的な映像を示された.また,最近ではALSや脊髄小脳変性症(SCA1,6)への応用のデータも示された.パーキンソン病患者さんのの運動機能改善,完全寝たきりだったAADC欠損症の小児が立てるようになった映像も驚きであったが,一度遺伝子治療を行ったのち,動物では,15年,人でも5年は効果が持続しているデータは治療の永続性で注目すべきである.

特別講演 脳疾患におけるGTP代謝リプログラムと新たな治療戦略:

サイエンスのメジャーリーグで勝負する為に大事な3つのこと

Cincinnati大 佐々木 敦朗先生

佐々木先生は,大学院卒業後,渡米され,現在はCincinnatiでPIとしてご活躍中である.今回のご講演は,glioblastoma cell lineにおけるGTP代謝亢進,GTPのセンサーとしてのPI5P4kβと発見のお話であった.またKRP203/ fingolimodがPI5P4kβに作用して,腫瘍の細胞死に関与する系を示された.これまで代謝におけるATPは古くから検討されていたが,新しいGTP系は注目すべきである.

 また,海外でも科学者として成功するためには,科学者としての基礎体力,独自の魔球(本人しか持ち得ない能力),仲間と酒(コミュニケーション)の3つが大事であること,情報,自信,勇気を持つことも強調されていた.

夏期セミナーは,短期間に基礎から臨床まで脳研のすべてを知れるとても興味深い会である.来年もぜひとも活気のある会にするべく,尽力していきたい.

金澤雅人

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