International Stroke Conference 2017の参加報告
金澤先生より学会の参加報告です。
ヒューストンで開催された国際脳卒中協会会議 2017(ISC2017)に,当科から,下畑先生,野崎先生,上村先生と私(金澤)が参加しました.
始めに,参加に際し,期間中いろいろとご面倒おかけしました病棟の先生方に深謝 いたします.
Houston は,日本では,アポロ計画やNASAで有名です.実際には,ロケット発射施設はありませんが,訓練施設と管制施設があります.むしろ,米国では,工業で有名で,全米4番目の規模を誇る都市で,飛行場に,1分に2,3機が着陸するぐらいの大都市です.とても温かく,すでに新潟の5月ぐらいの状態で,日差しは新潟の夏より強かったです.前日までに参加登録は 4100 人をこえており,Strokeに関する世界最大の学会です.前々回の ISC2015, Nashville は,3つの血管内治療の positive resultで盛り上がり,前回は特別盛り上がりなしでした.今回はこれまでと比べて,基礎の演題が多いこと,神経アストロの保護ではなく,ミクログリアからの保護治療,脳出血の演題がとても多いことが特徴でした.少し前のtPAや血管内治療と併用する保護療法の話はあまりなかったと思います.
Houston Downtown
Convention Center
Professor-Led Poster Tourの上村先生
Plenary Session
Late breakingの中で注目するべき演題が選ばれておりました.1昨年,昨年ともlate breaking oralに選ばれた演題は,発表当日にNEJMに掲載されていましたが,今回はnegative resultでもあり,あまりインパクトのある仕事ではありませんでした.
LB1. Head position trial:
未だに頭を上げるのかいいのか床上でいいのか結論でていないことに驚きましたが,世界11094人のstudyの結果,30度以上上げた群とそれ以下の群では,mRS,死亡率,肺炎合併などは変わりなかったです.(Int J Stroke 2017)
LB2. 血管内治療 吸引とstent retrieverどちらが勝るか:
昨年は,Solitaireが勝るというデータが出ていましたが,今回はpenumbraの吸引の方が再灌流までの時間は短いとのこと.しかし,outcomeは不変.部位や術者の慣れが大事なのかもしれません.
Plenary day 2
Thomas Willis lecture 基礎の分野で大きな発展をのこした仕事をした先生のreview
今回は出血の機序の話 Prof Aronowki,Houston
出血の病態機序は実はわかっていない.これはspont hemorrhageのいいモデルがないことによる.
(動物モデルとして,血液を基底核に投与するとかcollagenaseによる出血モデルといった外的要因があるぐらい)
出血による病態は,mass effectと血液のheme, radicalが実質に影響を及ぼすことによるのだろう.血腫周囲に集簇するmacrophageやCD36+microgliaがphagocytosisにて,血腫の除去,heme吸収に関わる(CD36 K/Oで確認.PioglitazoneはCD36をupregulateして回復に働く,M2極性にも作用する.また転写因子Nrf2も関与している).
plenaryのあとProf del Zoppoと食事をしたが,そのときにProf Aronowkiが遊びに来てくれた.Nonhuman primateとrodentでは,血腫周辺の集簇細胞が異なる話もあるが,その違いは何によるのかアイディアがあるのかと伺った.しかし,spont hemorrhageのいいモデルがないから誰もわからないといわれた.やるべきことが多い分野だと思うし,アジア人のほうが多い疾患なので,僕らが考えなくてはいけない領域だと思った.
Late breakingのtopic
LB1. Aspirin, clopidogrel, dipyridamoleのtriple Tx.(TARDIS trial)
出血を増やすので,やはり短期間のdouble Tx以外の治療は無効だろう.
LB2. 出血後の抗凝固の再開
抗凝固を再開しても,出血は増やさず,むしろ梗塞も抑制し,死亡率も低いと.
シンポ演題から
・53000人のbig dateから(ENIGMA study)Stroke3000人のデータ解析.
リスク,画像,遺伝子を網羅的に解析する.Precision medicineというのだそうだ.左側と右側の脳卒中の予後を比較した時,右の脳卒中の方が機能回復しにくいことは,病識がかけて,リハビリがうまく乗らないためと思っていた.しかし,この研究結果の一つとして,右の方が皮質の病変が多く,回復しにくいこともわかったそうだ.Strokeはbig dataの時代なのかもしれない.
・虚血実験では有名なProf. Bixの演題
fibronectionに対する受容体α5β1integrinを阻害することで梗塞の縮小,astrogliosisの抑制,機能回復を示した(最新号のStroke誌にでたばっかり).彼らは,ASA,NIHの勧告する動物実験に求められるpreclinical dataとして,異なる複数のモデル(再灌流,永久閉塞),動物(マウスとラット),違った治療介入(KO,small molecule),異なるラボでの再現性を示している.ここまでやらないと,いい仕事にはならない.
・Microglia M1/M2 polarization
今回のISCではとても多い内容.HDAC3 inhibitor(RGFP966)投与で,極性をかえる事で治療効果をもたらす.M2 marker CD203 M1 marker CD86で評価.これまで,蛋白レベルでの評価が多かったが,より上流の転写因子で評価しているものがいくつかあった.
・脳出血で血圧を下げるか否か?
ガイドラインにはSBP140以下とあるが,NEJM2016に139以下に下げるか140-179で管理した二群の比較の報告あり.どちらでもmortalityは変わりなく,intensive群では腎機能障害をきたしやすかったと報告された.すぐには,ガイドラインは変わらないだろうが,BP140~150が推奨されると.腎機能が悪い例では,一様に140未満に管理するべきではないのかもしれない.
・脳出血脳室穿破に対するtPA脳室投与
Lancet2017にCLEARⅢとして報告.血腫量が>20mlでは,tPA投与でmortality低下する(ISC2016).その一方,inclusionが厳しすぎて,10500例の候補のうち500例しか振り分けられていない研究であった.なおかつtPA投与群の方が血腫量も少なく(<30ml),軽症例が多いというbiasがある研究であり,批判的な意見があった.
・S100A9 peptideに対するワクチン療法(阪大) S100A9 KOで血栓症が増えるという報告(Want JCI 2014)から,これに対するワクチン療法を検討.結果,梗塞体積が縮小した.どういう臨床応用を考えるのかという質問があった.
次回は例年より,1ヶ月早い,来年1月にLAで開催されます.