脳動脈硬化に新たな角度からの解決の糸口を発見しJCIに報告しました
新潟大学脳研究所の加藤泰介准教授(分子神経疾患資源解析学)らのグループは,遺伝性の脳小血管病(以下,CARASIL)のモデルマウスに,カンデサルタンが有効である事を発見しました.CARASILはHTRA1と呼ばれる遺伝子の変異によって発病し,イギリスの研究では,脳小血管病患者の450人に1人にHTRA1遺伝子の変異が関係することが報告されています.CARASILの脳動脈硬化は,よく見られる加齢性の脳動脈硬化に類似し,加齢性脳動脈硬化症の治療への応用が期待されます.
私たちの体は構成している細胞の間には細胞外マトリックスという様々なタンパク質で構成される特殊な構造で満たされています.細胞と細胞の間のクッションの様なイメージです.ここに他のタンパク質をためたり,組織の固さを調節したりしています.この細胞外マトリックスを構成する蛋白質の集団のことをマトリソームといいます.
今回,加藤准教授らは,遺伝性脳血管病CARASILのモデルマウスの脳血管を解析し,このマウスの血管壁にマトリソームが蓄積し,脳血管の硬化,脳血流の低下がおこることを発見しました.また,CARASILの患者さんでも,マトリソームが蓄積していることを見出しました.
さらに,加藤准教授らは,降圧薬であるカンデサルタンにマトリソームを調節する機能があることに注目し,その効果を検証しました.その結果,カンデサルタンは,CARASILモデルマウスのマトリソームの蓄積を抑制し,血管の硬化,脳血流の低下を改善させました.
マトリソームの異常は,加齢性の脳動脈硬化でも起きている可能性があり,これまで有効な予防法・治療法がなかった,脳血管の老いに対する新しい解決の糸口となることが期待されます.脳動脈硬化は,認知症の3番目の原因ともされ,またアルツハイマー型認知症との合併も多い.脳血管の硬化保護という視点の今回の研究は,これらに対する画期的なものと思われます.
同成果は,米国科学雑誌「Journal of Clinical Investigation」(医学研究雑誌で3番目)に2021年 11月 15日に掲載されました.
Candesartan prevents arteriopathy progression in cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy model