Keystone conference
Keystone conferenceに参加して(特任准教授 加藤泰介)
2019年2月、カナダ・ビクトリアで開催されたKeystone conference “Genome Engineering: From Mechanisms to Therapies”に参加してきました。幸運なことに昨年に続き今回もoral presenterに選ばれ、我々の研究を口演の形で発表させてもらう機会に恵まれました。今回のカンファレンスは新しいゲノム編集技術の開発・デリバリーに関する発表がメインで、一部、治療応用に関する発表が行われていました。いかにこの分野の進歩が速く、そして常に意識して論文をフォローしていかなければ、当たり前のように置いていかれてしまうのだと痛感する会でもありました。ゲノム編集に特化した会なので、個々の発表というよりも、実際に我々にとって使用可能であると感じた、知っておかなければいけない新しい技術を二つ紹介させていただきます。
1) Base-editing
従来のゲノム編集で用いられるCas9によるDNA2本鎖切断やニッカーゼによりニックの挿入などを用いずに塩基を変換する技術。G/C to A/TまたはA/T to G/Cの書き換えができる。また、DNAだけではなくADAR2を利用したRNAの書き換え技術RNA base editingも開発され、発表されていた。共に、NatureとScienceに2017年に発表されている。
2) Microhomology-assisted excision(MhAX)法
DNAドナー配列を用いずに、DNA損傷修復機構の一つであるMicrohomology-mediated end-joining (MMEJ)によって一塩基のsynonymous変異だけを残して目的の一塩基置換・薬剤耐性遺伝子除去を可能にした手法。この技術は京都大学のCiRAが開発した技術。
この二つの技術によって、iPS細胞疾患変異挿入株は今後大量に作成されてくるとものと考えられます。また、RNA-base-editingはDNAを編集するわけではないので、可逆的な遺伝性疾患の治療に応用することが期待されます。両者とも特異性やmicrohomologyがあるのみ適用出来るなどの制限があり、まだ発展の途中でありますが、実際にCiRAではこの技術を使用して疾患変異を導入したiPSモデルを作成し始めていました。
臨床応用に関しては、CAR-T療法に関するものがメインでした。多くが現在行われているex vivoでのゲノム編集や遺伝子導入を、in vivoで行うためのT-cellデリバリーに関しての発表が多かったです。
強く感じたことは、ゲノム編集・治療応用に関して、圧倒的に日本が遅れているということでした。ゲノム編集治療に関する研究は、日本ではまだマイナーなように感じますが、海外の研究者の間では、それが近い将来必ず来る当然のものとして語られており、非常に大きな溝と危機感を感じました。ですが一方で自ら行っているゲノム編集治療が、そう遠くない未来、現実となる日が来るだろうと感じることができ、自分自身、大きなモチベーションとなりました。こういった世界との溝や差を痛感すること、それをモチベーションに変えることも国際学会に参加する大きな意義ではないかと思います。
また、もう一つ貴重な体験としてCell誌の副編集長であるDr. Deborah Sweetとwork shopの他のプレゼンターとでランチをする機会に恵まれました。つたない英語力で必死についていった中で得た一つの収穫は、Cell誌を含めトップジャーナルでは論文のMethodsの記載に改革が起こり始めているということでした。Cell誌ではSTAR Methodsという名前で始まっていますが、とにかく詳細なMethodsを重要視する流れとなっているようです。ランチの議題もこのSTAR Methodsをどのようにしていったらよいかアイデアが欲しいという趣旨のものでした。抗体の事細かな情報から全ての使用に関する記載など、とにかくその論文を再現できるような詳細なプロトコールを求めていく方向のようです。この流れは他の科学誌にも波及していくかもしれません。
今回は初めての単独での国際学会の参加にキーストンでの口演発表が重なり、逃げ出したくなるような緊張感がありましたが、何とか乗り越えた経験は今後の非常に大きな糧になることは間違いないと思います。また、他の研究者との交流もこれまでになく多く恵まれ、今後に繋がるような出会いもあり、非常に充実した学会参加となりました。
実際に世界の研究者の発表を聞かなければ感じることができないことがたくさんあります。また、とてつもない緊張・苦労はありますが国際学会でプレゼンテーションは、経験してみて初めて得られることがたくさんあります。それは時には、その場では恥ずかしさや、くやしさを伴うかもしれませんが、それも踏まえて経験しなければ得られない成長のチャンスであると今は実感しています。また、このような機会を得られるよう研究に邁進していきたいと思います。