第48回新潟神経学夏期セミナー

2018年07月23日 脳神経内科だより

1日目
レジデントコース,一日で脳研臨床部門を体験できるものであった.
朝から,研修医,医学部1年生の学生の方が参加してくれた.当科の見学は,総回診の見学であり,近い将来の姿を知れる点で意味が大きいと言葉をいただいた.
その後,脳外科の見学,Brain cuttingの見学,神経系のCPCに参加いただいた.全体を通して,勉強になったとコメントをもらった.

3日目

夏期セミナー最終日は,「グリアが織り成す神経回路の動態制御とその病態」のテーマでグリア細胞に関する内容で,基礎臨床病態のお話を頂いた.グリア全般の内容であったが,学生,若手研究者に向けての総説的な内容から始まり,その上で細分化した格調高いご講演であった.神経細胞と比べるとグリア細胞は静的な細胞と考えられていたグリア細胞が,いかにdynamicな挙動を示し,脳内環境の維持にいかに作用するか,さらに疾患に関係するかを幅広く知ることができたシンポであった.

 

演題1 脳血管障害におけるグリアによる脳保護

新潟大学脳研究所神経内科 金澤 雅人

主に脳梗塞におけるミクログリア,アストロサイトから分泌される保護的成長因子や組織リモデリング因子のプログラニュリン,血管内皮増殖因子(VEGF),マトリックスプロテナーゼ-9に注目し,亜急性期に保護的に修飾したミクログリアを投与することで,脳梗塞後の機能回復を促進させるという実験結果を示した.グリア細胞は脳血管障害においてさまざまな標的であり,うまくグリア細胞を調整することができれば,脳疾患を制することができるという内容を提示した.

演題2 ミクログリア異常と白質脳症

新潟大学脳研究所神経内科  今野 卓哉 先生

大脳白質の障害で生じる白質脳症の一疾患Adult-onset leukoencephalopathy with axonal spheroids and pigmented glia(ALSP)は,colony stimulating factor 1 receptor (CSF1R)遺伝子の変異によるハプロ不全で生じる.CSF1Rは脳内では,ミクログリアに発現し,疾患脳では,ミクログリアの形態,機能不全を認める.今野先生は,大学院生,Mayo Clinicご留学中にALSP症例をまとめ,他の白質脳症と区別する特徴を検討し,診断基準を策定するに至った.CSF1Rは末梢単球にも発現するが,中枢神経症状以外の症状を認めない点,末梢単球での検討など,今後の研究の発展が興味深い.

 

演題3 ミクログリアと心の病気:橋渡し研究 

九州大学医学研究院 精神病態医学 加藤 隆弘 先生

死後脳の病理組織やPETを用いた検討で,精神疾患で脳内ミクログリアの過剰活性化が報告されている.加藤先生は脳内の炎症が,精神疾患急性期病態に関与するという仮説からこれまで検討を進められている.注目すべきは,通常直接的な評価が難しい脳内ミクログリアに類似したミクログリア様(iMG)細胞を末梢血から分化させる技術で,iMG細胞を用いて,薬剤のスクリーニング系を確立されている.病態検討のin vitroの系として興味深い.

 

演題4     オリゴデンドロサイトの分化と脳機能     

新潟大学 大学院医歯学総合研究所 神経生物・解剖学分野 竹林浩秀 教授

オリゴデンドロサイトは中枢神経系におけるミエリン形成細胞であるが,様々な病態にかかわっている.しかし,過去にはオリゴデンドロサイトを評価することは難しいこともあり,私自身も未知の細胞である.今回,学生や若い研究者にも理解いただけるよう,総論的なことからご講演頂いた.オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化の過程で,アストロサイトにも分化するものもあり,分化の過程が疾患の病態解明につながることがわかった.他,中枢神経疾患でないものにも関与することを示されていたことは驚きであった.

 

演題5 神経変性疾患におけるグリア病態

名古屋大学  環境医学研究所 病態神経科学分野 山中 宏二教授
これまで変性疾患において見られるグリアの活性化,それに伴う炎症は二次的な変化と考えられていたが,一次性の変化であることを分子生物の機序で明確に提示していただいた.今回は,主にアストロサイトの筋萎縮性側策硬化症(ALS)病態における関与について示された.glia-neuron interaction,microglia-astrocyte interactionは神経変性疾患のみならず,注目すべき視点であると考えた.

 

演題6 グリア細胞による脳リモデリング

臨床的にも病態を捕らえ,治療することが難しい神経障害性疼痛の病態機序を示され,治療薬がいかに作用するかのメカニズムを提示された.その中心を担う細胞がアストロサイトであること,シナプス形成,刈り込みをアストロサイトが担うという機序は極めて新しい着眼点である.また,脳梗塞後のアストロサイトの役割も動的に作用しているのは興味深い.

 

夏期セミナーは,短期間に神経系の基礎から臨床まで脳研のすべてを知ることができる会です.基礎的なことから臨床にアイディアをtranslationすることができる点でも楽しい会である.この会で知り合った研究者,学生さん,製薬メーカーの方とも連絡を取り,来年もぜひとも活気のある会にするべく,尽力していきたい.

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