70th AAN Annual Meeting

2018年05月05日 脳神経内科だより

70th AAN Annual Meeting, Los Angeles, CA

三浦 健

アメリカ合衆国ロサンゼルスで4月21日~27日まで開催されたAmerican Academy of Neurology (AAN) 年次学術集会に参加して参りました。1週間にわたって病棟業務を離れご迷惑をおかけしたことと存じます。快く送り出して下さり,ありがとうございました。学会の様子などをご報告申し上げます。

Los Angelesについて
 Los Angeles (LA) はアメリカ合衆国西海岸,カリフォルニア州最大の都市で,ニューヨークに次いでアメリカ国内で人口の多い都市です(人口約976万人)。日本人街リトルトーキョーもあり日本人や日系の方も多く住んでいます。市内にはあの映画の街ハリウッドがあり,数々の映画の撮影の舞台にもなっています。

Figure 1. グリフィス天文台
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映画ラ・ラ・ランドにも登場したLA内の有名スポット。LAの夜景を見渡すことが出来,非常に多くの方が訪れます。

AAN参加報告
 今回は大学院生の間に主に遺伝子機能解析学分野教授池内健先生に御指導頂いた「Adult-onset Leukoencephalopathy with Axonal Spheroids and Pigmented Glia (ALSP) 症例における新規CSF1R遺伝子変異の機能解析」についてポスター発表して参りました。また新潟からは現在燕労災神経内科に出向中の目﨑直実先生が「AARS2遺伝子変異による成人発症白質脳症症例」をポスター発表し,今野卓哉先生はMayo Clinic留学中のお仕事をポスターと口演の2演題発表しました。
 今回のAANではポスター演題が増え,感染症や脳血管障害,認知症,多発性硬化症,腫瘍,医療経済など様々なカテゴリーで連日約500弱の演題が発表されました。
 今年のAANでは教育コースが非常に多く設定され, Movement DisordersやDementia, MSなど,それぞれの分野の現在のスタンダードをレビューしつつ,実臨床での実践に重点が置かれていました。Neuroscience in the Clinicというセッションも組まれwhole exome sequenceなどの次世代sequencerを用いた遺伝子解析技術をどう実臨床に生かすかという視点で,プログラム構成されていました。
 その分,最新の研究成果報告や一般口演といったブースは少ない印象でした。一方キャリア形成のためのコースや,リーダーシップに関するブース,毎年恒例のYoga教室もあり,学会として会員の生涯教育やキャリア支援,wellnessといった事項にも力を注いでいることを感じました。

Figure 2. ポスター発表・口演
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Plenary Sessions
今回は参加したSessionの中から会長講演とControversiesを紹介したいと思います。
[会長講演]
 日本の学会では大会のテーマに沿って大会長講演がなされることが一般的ですが,AAN annual meetingでは学会会長が学会の役割や学会が目指していることを宣言します。2018年はRalph L. Sacco先生が米国神経学会の現在と目指すものを講演されました。AANは学生会員も増え,国際化が進み,Diversityへの取り組みも成功し現在AAN会員10人に4人が女性です。多様なpublicationやmeetingの開催により,会員個別のニーズが満たされるよう取り組んでいます。財政基盤も盤石で会費はAAN運営費の16%程に抑えており,会費1ドルあたり86セントが様々な形で会員に還元されているそうです。学会員のキャリア形成や燃え尽きに対しても様々な取り組みをしており,それが患者さんの治療・ケアの質の向上に必要であること,そのために学会が目指していること,取り組み,その成果を示す力強い内容でした。

[Controversies in Neurology]
 Neurologyの分野でホットな話題をテーマにエキスパートがYES, NOに立場を分かれて議論するセッション(セッション自体も勉強になりますし,プレゼンテーションやディスカッションの勉強にもなります)。
テーマ1. Sould We Use Biomarkers Alone For Diagnosis of Alzheimer’s? (アルツハイマー病の診断にバイオマーカーのみを用いるべきか?)
discussion前は3:7程度でNOが多数。
YESの立場でMicheal Weiner先生が,NOの立場でM. Maria Glymour先生がdiscussion。YESの立場からは,感染症や内分泌疾患,癌,血管病変などでは画像や検査値等のバイオマーカーによる診断が一般的でバイオマーカーによる診断は決して医学において珍しいことではないこと,ADの臨床診断例では15%がAmyloid negative,一方Cognitive Normal群にもAmyloid positiveがおり厳密に背景病理を診断するためにはバイオマーカーによる診断が必須であることなどを主張。NOの立場からはAmyloid仮説が立証出来ていないこと,現在のAmyloid蓄積自体は現在の認知機能を反映しないことから,現時点ではバイオマーカーのみでAD診断を行うことは困難であると主張。最終的には聴衆の意見は五分五分程度まで拮抗しました。
 CSFやPETを用いてAD病理の推定はかなり正確に出来るようになりましたが,Amyloid positive≠AD(必要条件だが十分条件でない)であることや合併病理の問題もあることに留意が必要と思います。

テーマ2. Should the Neurologist Be Primarily Responsible For Taking Care of Patients With Functional Disorders?(変換症/転換性障害を神経内科が主に担当すべきか?)
 アメリカでもこれが議論になっているとは意外でしたが,どこでも似たような状況があるのだと親近感もわくテーマでした。
 YESの立場でDavid Perez先生が,NOの立場でAndrea Haller先生が議論。お二人とも症状は実際に存在し,治療可能であり,回復の可能性があること,正確な診断のために神経疾患の除外や不要な内服薬の減薬,説明など神経内科医の果たす役割は重要であるという点は一致。しかし気分障害などpsychiatric disordersの合併率が高いこと,strokeの対応に追われる中,時間の無い状況で十分な対応が難しいことから神経内科医がprimaryに治療に当たることは適切ではないのではないかというのがNOの立場。これも聴衆の意見は最終的には拮抗。各病院の診療体制や人員による部分も大きいかもしれません。

テーマ3. Would You Let Your Child Play Contact Sports?
AANではここ数年Chronic Traumatic Encephalopaty (CTE) が話題です(アメフト市場や軍関係で多くの研究予算がついていることも影響しているのでしょう)。プロフットボールプレイヤーに多く,タウ病理を呈するCTEですが,こういった危険性も踏まえた上で子供にコンタクトスポーツをさせてもいいだろうか?というテーマ。YESの立場でJack Tsao先生が,NOの立場でChristopher Giza先生が議論。お二人とも,正しい技術の獲得が何より大切であり,適切な防具の使用や性能の向上,ルールの見直しなども重要であるという点で一致していました。子供の頃のスポーツ歴がCTE発症率や認知症と関連するという報告は明確なものはないものの,やはりリスク・ベネフィットを考えると,あえて自分の子供にContact Sportsを選ばなくても…とNOが最後まで優勢でした。

Figure 3. 2018 Plenary Sessions
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Plenary Sessionsは毎年,ショーのようなディスプレイと演出。

今後に向けて
 海外学会に参加してみると,疾患群も保険制度も異なり,当たり前にしていたことに全く異なった視点・考え方・鑑別などがあることにも気がつかされます。一方,国が違っても共通したテーマに同じように取り組んでいる人がいることも知ることが出来ます。
 また米国ではキャリアやリーダーシップをいかに磨いているのかを垣間見ることも出来ます。
 もちろん学会の合間や終了後に世界を知ることも出来ます。すぐそばにある普通の生活や,そこでしか見られないものも,沢山あります。
 現在,神経学の分野は治療も進歩が目覚ましく,核酸医薬も次々と開発され,spinal muscular atrophyは治療可能な疾患となり,Duchenne muscular dystrophyに対してもエキソンスキッピング治療の開発が進んでいます。片頭痛に対する抗体療法やデバイス治療,Alzheimer’s diseaseに対する先制治療(DIAN-TUやA4 study),progressive supranuclea palsyへの抗タウ療法も治験が進んでいます。少し前までどうすることも出来なかった疾患が数年後には様変わりしているかもしれません。一方,Neuropalliative Careについても拝聴したのですが,現時点で治療法のない疾患とどのように対峙するか,何が出来るのかを考えていくこともとても大切だと改めて感じました。
 今回感じた熱気を忘れずに,普段の臨床の中から疑問や課題をみつけ,解決を目指して今後も取り組んで参りたいと存じます。
 来年のAAN2019 annual meetingはアメリカの古都フィラデルフィアでの開催です。是非,来年も参加を目指して,先生方と課題に取り組めればと思います。今後も宜しくお願い致します。

Figure 4. Closing Partyにて

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Figure 5. カリフォルニア科学センターのスペースシャトル Endeavour,学会の合間に訪問
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スペースシャトル開発の歴史にはチャレンジャーやコロンビアの痛ましい事故もありましたが,それらを乗り越え,1992年の初飛行から2011年6月まで地球と宇宙の間を25回飛行した本物の機体そのものが展示されています。多くの人の情熱と努力で世界中に夢を与えてくれた機体は,再び多くの人の情熱と努力によりロサンゼルスまで運ばれ,現在もたくさんの人に夢と感動を与えています(運んで来た様子も映写されており,こちらも感動ものでした)。多くの人が情熱をもって同じ目標に向かい努力することで,夢を現実に変えていく姿は,私達にも勇気を与えてくれました。

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